密度汎関数法による二リン酸の計算
代表的な高エネルギーリン酸化合物 ATP や ADP は,リン酸-リン酸無水物である.
このページではリン酸-リン酸無水物の最も単純な分子である二リン酸を取り上げ,密度汎関数法で分子軌道を計算した.
二リン酸の構造や反応性には,ヒドロキシ基の解離状態が大きく影響しているようである.
今後,反応モデルを作成するなど,さらなる検討を加えていく所存である.
本サイトでの作業仮説 リン酸仮説では,ビルディンブロックがコンポーネントを形成し成長するには,リボースとリン酸の反応が重要であると考えている.
ただしそのままでは重合しにくいので,ポリリン酸による「活性化」が関与するとしている.
これは高エネルギーリン酸化合物として現代に引き継がれている,という訳である.
ソフトウェア
分子モデルの作成は Builcule を使った.
密度汎関数法による計算は PSI4で,分子軌道の表示は Gabedit でおこなった.
試料と方法
入力構造
画像は 2 個のヒドロキシ基が解離した型の二リン酸の入力構造である.
Builcule で作成し,Builcule 上で Openbabel でコンフォメーション探索をしたものである.
OH … O の水素結合が形成されているように見える.
他の解離状態の二リン酸も同様に作成して入力構造とした.
このページではリン酸の解離状態を,各々のリン酸残基に結合した水素の数で表現する.
したがって,画像は「1H1H」と表すことになる.
方法
計算条件を下に示す.
- 汎関数:b3lyp
- 基底関数群:非解離型は 6-31G*,その他は 6-31+G*
P-O-P 結合角
molden 形式の出力ファイルを Builcule で開いて P-O-P 結合角を測定した.
画像は,0H0H の結合角を表現している.分子を手動で回転させて,P-O-P が成す結合角を法線方向から眺めたところである.
測定結果を表にまとめた.
| 解離状態 | O-P-O 結合角 (°) |
|---|---|
| 2H2H | 113.465 |
| 1H2H | 118.644 |
| 1H1H | 121.184 |
| 0H1H | 136.674 |
| 0H0H | 160.904 |
いずれも約 109.5°より大きい値で,あったが,解離が進むにつれて P-O-P 結合角は大きくなった.
負電荷を有する O- どうしの反発が大きく影響しているようである.
P-O-P 結合長
上と同じく molden 形式の出力ファイルを Builcule で開いて P-O-P 結合長を測定した.
表に測定結果をまとめた.
| 解離状態 | O-P-O 結合長 (Å) |
|---|---|
| 2H2H | 1.64901, 1.65046 |
| 1H2H | 1.70001, 1.62880 |
| 1H1H | 1.67808, 1.67889 |
| 0H1H | 1.75650, 1.63928 |
| 0H0H | 1.69579, 1.69653 |
法則かどうかわからないが,まとめてみた.
- 2 個のリン酸残基の水素の数が同じ場合:2H2H < 1H1H < 0H0H
- 2 個のリン酸残基の水素の数が異なる場合:水素が少ない方 > 水素が多い方
H-O 結合長
molden 形式の出力ファイルを Builcule で開いて H-O 結合長を測定した.
画像は,計算後の 2H2H である.水素結合している OH が 2 個,していない OH が 2 個ある.
測定結果を表にまとめた.
| 解離状態 | H-O 結合長 (Å) |
|---|---|
| 2H2H | 0.971676, 0.972655, 0.989542(水素結合), 0.98997(水素結合) |
| 1H2H | 0.971265, 0.995632(水素結合), 0.996671(水素結合) |
| 1H1H | 0.998039(水素結合), 0.998093(水素結合) |
| 0H1H | 1.02177(水素結合) |
| 0H0H | - |
P-O の O と水素結合している(ように見える)H-O の結合距離は,水素結合していないそれと比べて大きい値を示した.
言い方を変えると,水素結合により,H-O の結合距離が伸びたわけである.
LUMO のエネルギー
リン酸化の反応を考えるために,各解離型の軌道エネルギーを一覧表に書き写した.
| 解離状態 | O-P-O 結合長 (Å) |
|---|---|
| 2H2H | 0.001643 |
| 1H2H | 0.100641 |
| 1H1H | 0.246095 |
| 0H1H | 0.355839 |
| 0H0H | 0.459877 |
二リン酸が電子受容体として反応する場合,二リン酸の LUMO と電子供与体の HOMO で新しい軌道が生成する.
これらの HOMO と LUMO の軌道エネルギー差が小さいほど,新しい軌道が生成しやすい.つまり反応が起こりやすい.
…というのは,どこからかコピペした知識である.
別途メタノールの軌道を計算したところ,HOMO の軌道エネルギーは -0.264526 であった.
どこからかコピペした知識が正しいのであれば,メタノールのリン酸化は非解離型の 2H2H で起こることになる.
これを例えば,リボースの 6' リン酸化の反応に当てはめると,
- 化学進化(非酵素的反応)では強酸性下で進行する
- 酵素反応では,P-O- に水素結合で水素が与えられている状態
ということになるのであろうか.
LUMO の形
Gabedit を使い,各解離状態の 二リン酸の LUMO を描画した.
上から
2H2H
1H2H
1H1H
0H1H
0H0H
である.
LUMO の形からも,ヒドロキシ基の解離度が反応性に大きく影響しそうなことが判る.
これをメタノールとの反応に当てはめると,一番上の 2H2H の LUMO とメタノールの HOMO とのあいだで新しい軌道が生成することになる.